がんと筋トレ

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がんの病態である悪液質になると、筋肉量の減少が病的に起こります。

筋肉量の減少は予後とも関連しており、筋肉量を保つことはとても重要です。

筋肉量を保つためには、筋力トレーニングを行う事が推奨されています。

ある病院では、ジムと連携してがん専門のフィットネスを立ち上げている所も増えてきました。

この記事では、運動の専門家である理学療法士が、運動の種類や方法、個人に合せた負荷量を説明していきます。

がんと筋力トレーニング

がんになると筋力トレーニングが大事と繰り返していますが、その理由はがん悪液質にあります。

がん悪液質を知った上で、筋力トレーニングについて学んでください。

がん悪液質と筋肉減少

無酸素運動

無酸素運動とは、比較的負荷量の強い筋力トレーニングを短時間で行う運動と言えます。
例)ダンベル挙げ、懸垂など

無酸素運動の効果

  1.  筋肉の断面積を増やす事で、基礎代謝量を上げる
  2.  糖を消費させ、血糖値の上昇を抑える
  3.  筋肉量を増やす事で、生存率を上げる(寿命を延ばす)
  4.  マイオカイン分泌上昇による免疫向上
  5.  日常生活の向上

無酸素運動のような強力な筋活動を続けると、筋肉の大きさが増大します。

これを筋肥大と言います。

運動することで起こる筋肥大を、作業性筋肥大や、運動性筋肥大と呼びます。

筋肥大は、個々の筋線維の直径が太くなり、筋原繊維の数が増大し、筋肉のエネルギー代謝に必要な物質(ATP、クレアチンリン酸、グリコーゲン)が増えます。

筋肥大は適切な負荷量と筋トレの継続することで起こります。

動員される筋線維とタンパク合成の関係

筋力トレーニング初期に起こる筋力アップは、筋肥大ではなく中枢神経から筋肉に指令を出すシナプスが多く動員された結果と言われます。

トレーニングを継続する事で、筋肥大が起こります。筋力トレーニングによる筋肥大は速筋(太く、瞬発力をだすための筋肉)で著しいです。




筋肥大のメカニズム

筋力増強のメカニズム

筋肉の基である筋タンパク質は、常に合成と分解を繰り返す事でバランスを保っています。専門用語では、筋タンパクの合成を同化、分解を異化と呼びます。同化と異化のバランスを保っているのは、insulin-like growth factoe-1(IGF-1)を介したシグナルの経路です。このIGF-1は運動することで肝臓や筋細胞、骨が細胞で合成されます。それが引き金となり、図のような経路を辿って筋タンパクの合成に働きます。筋タンパク合成を促すことで、筋タンパクの分解を同時に抑制します。運動する事で筋タンパク合成が増えても、分解も比例して増えてしまっては筋肉はつきません。

*がんの方は、筋肉の分解が促進されると言われています。そのため、筋肉が落ちるスピードが速くなってしまいます。筋力トレーニングを行うことで、筋タンパク合成を促し、分解を抑制することができます。




トレーニングの実際

無酸素運動

筋肥大を起こす為には、最大筋力の75%の負荷が必要です。

最大筋力の30%以内の運動(ジョギング、エルゴメーター、水泳など)を規則的に行うと、それは有酸素運動となり、筋の酸素消費が増えます。

筋肉の代謝に変化が起こり、脂肪酸やケトンを効率よく利用しますが、筋肥大効果はあまり見込めません。

ここではダンベルを使って筋力訓練の例を挙げていきます。

運動の強度

無酸素運動の筋トレを行うためには、負荷量を決める必要があります。

負荷量は個人で異なります。

一人一人筋肉が異なるので、負荷量が異なるのは当然ですね。

まずば負荷量を決めましょう。

よく筋力トレーニングの参考書に、RMという単位を目にすると思います。

RMとは最大負荷量で反復可能な回数のことです。

例えば30kgのベンチプレスを最大筋力100%で1回持ち上げる事ができたら1RMとなります。

10RMはその95%の28.5%となります。

しかし、ベンチプレスは一般家庭にはありません。

そこで、10RMを調べることをおススメします。

用意して頂きたいのはダンベルです。

ダンベル

ダンベルは段階的に重さがあり、老若男女問わず10RMが測定できます。

スポーツ店に行けば必ず販売されてます。

店頭で、ダンベルを持ち、地面に腕を下ろした状態から肘の曲げ伸ばしを10回なんとか行えるダンベルの重さを探して下さい。

その負荷があなたの10RMで、だいたい最大筋力の70%となります。

*筋力訓練を行う前には、必ず骨転移がないかの確認をお願いします。骨転移がある場合、その部位へ負担をかけない方法で行う必要があります。

運動の頻度

筋力増強運動に関しては、週2回、週3回、週5回を比較すると、頻度が多いほど最大筋力が伸びたという報告があります。

少なくとも週3回以上は行ってください。

腕の曲げ伸ばしの反復回数は約10回(10RM)です。これを1日3回行うようにしましょう。

2週間たつと筋力が上がってくるので、負荷量を上げる必要があります。

また、筋力トレーニングにはホエイプロテインの併用が効果的です。

ホエイプロテイン+筋力トレーニングにより、がん悪液質への移行を抑えることにつながります。

こちらの記事も参考にして下さい☞がんとプロテイン

運動の予備知識

運動とエネルギー代謝

人間の体内には約180,000lcalのエネルギーが貯蔵されています。

その内訳は、脂質77%、蛋白22%、糖質1%です。

人間が活動する際にすぐに利用できるエネルギー源は糖です。

人間の体内にある糖の内訳は、筋グリコーゲン(筋肉にある糖)75%、肝グリコーゲン(肝臓の糖)20%、細胞外液のブドウ糖5%です。

筋グリコーゲンの消費は、有酸素運動では速筋で多く、無酸素運動では遅筋で多いです。

強い運動強度で疲労するまで運動を行うと、筋グリコーゲンは完全に消費され、筋肉の組織には乳酸が蓄積します。

乳酸が蓄積すると、筋肉疲労や筋力の低下が起こります。

筋肉は筋グリコーゲンが無限に存在すれば、無限に連続運動が可能かもしれません。あくまで仮説です。

速筋:直径が太く、筋収縮できる時間が短い筋肉。瞬発的な動きで働きやすい。
遅筋:直径が細く、筋収縮できる時間が長い筋肉。 持久力が必要な動きで働きやすい。

運動強度が低い時は、運動に伴う筋肉のエネルギーの多くは脂肪から供給されます。

運動強度を強くすると、糖質が利用されます。

最大酸素摂取量50-70%の運動強度になると、糖質が主なエネルギー源となり、最大酸素摂取量85-90%では、エネルギーは糖質だけになります。

運動する事で血液中の糖は筋肉に取り込まれて消費されますが、そのままでは低血糖になってしまいます。

そのため、運動すると肝臓にある肝グリコーゲンがブドウ糖に変換され、血糖値が維持されます。

運動と消化機能

軽い運動は胃の運動を亢進させますが、胃液分泌には余り影響を与えません。

しかし、中等度以上の運動では、運動量の増加に比例して胃酸の分泌が低下します。




がんと筋トレまとめ

がん患者さんでは、病態により筋肉量の減少が生じます。それを予防するために、筋力トレーニングを行う事が推奨されています。また、筋肉量を保つことは、予後にも影響を与えています。さらに、筋肉から分泌されるサイトカイン(マイオカインと呼ばれる)は、免疫機能の一旦を担っています。筋肉量減少を予防し、がん治療に臨んでください。