がんと味覚障害

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抗がん剤治療や放射線治療を行っているがん患者の方々は、味覚が変わったという経験をお持ちです。

今まで好んでいた食べ物が美味しく感じない、味がしないという感覚です。

それらは抗がん剤や放射線の副作用として起こります。

味覚障害は直接命に関わる疾患ではなく、味覚障害の程度を他者が推し量る事が難しいので、深刻に受け止められない事が多いです。

しかし、味覚障害は生きる楽しみを奪います。

その結果、栄養障害に陥るケースも珍しくありません。

この記事では今一度患者さん自身が味覚について考える機会となり、少しでも支援できれば幸いです。

がんと味覚障害

味覚の基本

味覚は5つの基本味に分けられます。甘味、うま味、塩味、酸味、苦味です。

最近では、脂質の味覚も注目され、6つの基本味になるかもしれません。

これら5つ(もしくは6つ)の味覚を組み合わせる事で、多様な味を認識しています。

甘味、うま味、塩味はそれぞれ栄養源である糖質、タンパク質、ミネラルのシグナルです。

酸味は腐敗物、苦味は毒物のシグナルです。

味覚を脳で完治し、食べたい、食べたくないという行動が形成されます。

食べたい欲求を満たす事は幸福感、充実感をもたらし、生きる活力を生み出します。

舌の感覚、味覚

抗がん剤による味覚障害

味覚障害はがん治療患者の3-7割で認識しています。

味覚障害の種類

  • 味覚消失(味覚脱出)・まったく味を感じない
  • 味覚減退・・・・・・・味の感じが弱い
  • 異味症(錯味症)・・・本来の味と異なる味に感じる
  • 解離性味覚障害・・・・特定の味を感じられない
  • 自発性異常味覚・・・・何も味刺激がないのに常に苦味や塩味などを感じる
  • 悪味症・・・・・・・・何を食べても嫌な味がする

栄養の相談内容で多いのは味覚減退・消失、自発性異常味覚、異味症です。

味覚減退・消失

これは抗がん剤2回目以降で強く出現するケースが多いようです。体内の亜鉛不足が原因と考えられていますが、血液検査で亜鉛の数値が異常を示す事はありません。5味のうちでは、うま味と塩味が特に減退しやすいです。一方、甘味や減退は保たれ易いです。

自発性異常味覚

抗がん剤開始から比較的早く表れるのが、自発性異常味覚です。治療薬の代謝物が唾液と共に口腔内に分泌させることが原因と考えられています。

異味症

食べ物本来の味を感じない異味症では、食事量が落ちるケースが多いです。

その他の味覚障害

口腔疾患

舌や口腔粘膜の衛生状態が悪くなると、炎症による味蕾表面の状態悪化や、味物質の到達の障害がおこり、味覚障害がおこります。

また口腔疾患により唾液の分泌が少なくなると、味覚障害に繋がります。

唾液は食物を溶解し、味受容器まで味物質を届ける役割があります。

その他にも、味覚器官の機能維持にも唾液は必要です。

口腔内乾燥や口の渇きを感じる薬剤の副作用でも、唾液分泌異常による味覚障害は起こってきます。

口腔・咽頭部癌の手術、放射線治療を受けている場合、味覚器や唾液腺が障害され、味覚障害を生じます。

放射線治療では治療2週目から4カ月目まで味覚障害が続くといわれます。

心因性

病気や治療に対する不安からおこる症状の一つに、味覚障害があります。味覚検査は正常だが、自発性異常味覚が現れます。

全身疾患

糖尿病、腎不全、肝不全、貧血、消化器疾患に伴う味覚障害が報告されています。

特に糖尿病は尿の排泄増加に伴って亜鉛が排出され、味覚障害が出現します。

一部の糖尿病治療薬(メトホルミン塩酸塩、ナテグリニド、ボグリボースなど)も味覚障害の副作用が出現します。

腎不全ではタンパク尿とともに亜鉛が尿として排出多過となります。

消化器疾患では亜鉛の吸収障害により味覚障害が起こります。





味覚障害の生理学

味蕾細胞(舌の中に存在し、味を受け取る細胞)は10日程度で入れ替わります。

抗がん剤による味覚障害は、抗がん剤から数日で発症し、1週間以内で改善することが多いです。

抗がん剤による味覚障害の要因は、味細胞の再生に重要な亜鉛が、抗がん剤と結合して体外へ排泄され、亜鉛欠乏状態になるため。と言われています。

しかし、その詳細は未だ不明です。

徳島大学の堤先生は、生体防御機構の一部として味覚の変化が生じている可能性があると報告しています。

抗がん剤を毒物と認識し、苦み味覚受容体を増加させることで毒物摂取を抑制しようとする生理的な反応と捉えています。

味覚障害の治療

亜鉛欠乏の治療

亜鉛内服療法、サプリメント、食事療法が行われます。

亜鉛内服療法は3カ月間行われ、効果を判定します。

食事療法では亜鉛を多く含む牡蠣、かに、するめ、豚レバー、牛肉、卵、チーズ、納豆、アーモンド、落花生などがあり、積極的に摂取することを勧めます。

亜鉛についてはこちらの記事で詳しく☞がんと亜鉛不足

薬剤性味覚障害の治療

主治医へ相談し、亜鉛製剤の投与が行われます。

口腔疾患の治療

第一の治療は口腔衛生管理を行うことです。

歯を磨く事はもちろんですが、舌も軽い圧でブラッシングします。

口腔乾燥が強い場合には、ジェルタイプの保湿剤を塗布して潤いを保ちます。

柑橘系のフレーバーを含むタイプを使用すると唾液分泌を促せます。

唾液腺マッサージや舌体操も効果的です。

詳しくは、味覚障害のリハビリテーションで説明します。

心因性味覚障害の治療

心因性の味覚障害と判断された場合、抗不安薬や抗うつ薬により改善する場合があります。

味覚障害のまとめ

味覚障害はがん治療患者の多くが経験しており、命には関わらないからと軽視されがちです。

しかし、食べる楽しみを奪われる苦痛は測り知れません。

また、食欲減退がおこると栄養障害に発展し、治療に支障をきたすこともあります。

「がんという命に関わる治療をしているのだから、これくらい我慢しないといけない」と考えがちですが、辛い治療だからこそ、栄養というベースを整える事が重要です。

遠慮せずに主治医へ相談するようにして下さい。




参考文献

  • 堤理恵:化学療法に伴う味覚・嗅覚障害への対応, 日本静脈経腸栄養学会雑誌33(4).2018.
  • 杉本久美子:味覚障害.総合リハ第46巻11号.2018