骨転移のリハビリテーション

骨転移は肺がん、乳がん、前立腺がんで合併する確率が高いですが、それ以外のがんでも可能性はゼロではありません。 まずは骨転移を復習しましょう☞骨転移のキホン

骨転移が見つかった場合、疼痛軽減を目的とした放射線治療と骨を強くするための薬剤治療が行われます。

その間も疼痛や骨折のリスクが伴います。疼痛軽減や骨折のリスクを回避するために、リハビリテーションが行われます。

骨転移のリハビリ

骨転移に対するリハビリテーションは、主に理学療法士か作業療法士が行います。

ここでは理学療法を中心にお話ししていきます。(私が理学療法士なので)

理学療法では、まず初めに身体の理学療法検査を行います。

私たちは評価と呼びます。

評価の目的は、検査結果から予後予測や今後の目標を設定することです。

骨転移の方に行われる検査は、疼痛検査、筋力検査、感覚検査、腱反射検査です。

MRI・CT画像と身体に起こっている障害が一致するか確認します。

がん理学療法評価のサイクル

がん理学療法評価のサイクル

疼痛検査

骨転移を起こしている部位が痛いのは当然です。痛みが強い場合、痛みが長く続いている場合には、痛みが発生している周囲の筋肉や軟部組織にも影響して痛みが広がっている場合があります。どの部位が、どの時に、どの位、どんな種類の痛みかを確認します。

方法は、問診と徒手的検査です。

Numerical Rating Scale(NRS)

看護師や理学療法士は、痛みを10段階で聞いていきます。これは、Numerical Rating Scale(NRS)という検査です。我慢できない程の痛みを10、全く痛みがない状態を0になります。定期的にこの検査を行うことで、痛みの経過を観察していきます。

がんリハ NRS

徒手的検査

打診

骨転移の起こっている部位を特定するために行います。拳を握り、骨を叩く事で、痛みが起こる部位を探ります。

触診

骨転移の周辺にある筋肉や軟部組織は硬くなる傾向にあります。それらを触る(触診)ことで得られる情報があります。触り方は、その組織に「圧をかける、滑らせる」です。

筋力検査

通常、マニュアルマッスルテスト(MMT)が行われます。これは筋力を6段階で評価する検査方法です。「MMT3レベル」は重力に抗して関節運動が行える位の筋力を言います。

MMT1-2レベル」だと、重力に抗して運動が出来ない位の筋力です。年齢なども考慮されますが、障害を受けるとMMT1-2レベルとなります。

MMT検査を行うことで、どの神経が障害されているかを判断できます。MMTの結果とMRI・CT画像を照合することで、確実に問題点を抽出できるのです。

筋力検査(MMT)

感覚検査

感覚検査はとても重要な検査です。骨転移により脊髄神経が障害されると、感覚障害が現れます。感覚障害の表れている箇所をデルマトームと照合することで、どの脊髄神経が障害を受けているか判断できます。人間の感覚は複数あります。触覚、圧覚、温覚、痛覚など。それらの刺激を複数与え、反応を見ていきます。

デルマトーム 皮膚分節知覚領域

腱反射検査

腱反射は、打鍵器と呼ばれる器具を用いて腱を叩く事で、筋肉の反応を見ます。脊髄神経が障害されると腱反射が弱くなる特性を利用して、障害の部位判別に使われます。

腱反射に利用する打鍵器

理学療法評価を行い、問題点が明らかになると次は訓練です。

装具療法

推奨グレードC1
脊椎転移や四肢長官骨の転移を有する患者では、経過中に病的骨折や脊髄圧迫による麻痺を生じて、ADLやQOLが低下する場合がある。これらのリスクがある症例に対して装具療法を考慮するべきであるが、十分な科学的根拠はない。

上記のように推奨グレードが低いため、骨転移を起こした場合に装具を作成するか現場でも悩む事があります。判断基準として用いられるのは、(後述する)SINSまたはMirelsスコアの点数です。骨転移の病変が溶骨性であれば、骨折のリスクが高いため装具を作成します。骨転移が早期発見され、放射線治療が開始されても、放射線治療による骨硬化効果は数か月後にしか表れません。その間に予防として装具を作成することもあります。

体幹軟性コルセット

体幹軟性コルセット

筋力増強訓練

骨転移に対する放射線治療の骨硬化は数ヵ月後に起こります。その間、ベッド上生活を強いられるケースもあります。寝たきりの時間が長くなると、筋力低下を引き起こします。骨が強くなっても、いざ起きる時に筋力が低下していると、日常生活への復帰が遅れます。

筋力増強訓練の方法は、徒手抵抗訓練と重錘負荷訓練が選択されます。担当理学療法士により方法は異なります。

ダンベル

マッサージ

骨転移による痛みが生じている場合、その周囲の筋肉や軟部組織が硬くなっている事があります。硬さは血流障害を起こし、痛みを発生させます。その部位をほぐす事で、痛みが緩和されます。

リラクゼーション

日常生活指導

ベッドから起き上がる

ポイントは、体幹を捻らない事です。寝返る時は、両膝を立て、顔から足まで一緒に横になります。横になったら先に両足をベッド端から床へ降ろします。次に手すりや上肢のプッシュアップを使って身体を起こして座ります。もし、電動ベッドだったらギャッジアップ機能を使うと、腰への負担が軽減されます。

立ち上がる

立ち上がりは脊柱への負担がとても多いので、注意が必要です。まず、立ち上がる座面の高さを確認して下さい。洋式トイレより低い(約40cm以下)と脊柱への負担が大きいです。座面は高くして立ち上がります。立ち上がる際は、手すりにつかまるか、両膝に手を置いて上肢のプッシュアップを行ってください。脊柱への負担を軽減することができます。

座る

座る時も脊柱への負担が大きいです。特に、ドスンと座る事は避けて下さい。勢いよく座ってしまい、圧迫骨折を起こすケースは多いです。手すりにつかまるか、両手を膝に置いて、ゆっくり座りましょう。

歩行

歩行する時は、歩行器を使うことをおススメします。少しの距離くらい大丈夫だろうと油断する患者さんは多いです。病院に入院している時は、歩行器を借りて(貸出して)下さい。一番安全なのはピックアップウォーカーです。

ピックアップウォーカー

また、歩行する際は必ず運動靴を履いて下さい。スリッパは転倒しやすいですし、歩行している時の脊柱への負担も大きいです。

入浴

浴室はしゃがみ込む動作が多く、体幹が前傾(まえのめり)になりやすいです。脊柱への負担が増えます。そのため、シャワーチェアーを利用して下さい。また、浴室内は滑りやすいので、手すりの設置をおススメします。

排泄

清拭動作では、身体を捻りすぎないようにして下さい。ウォシュレット機能があれば、温水洗浄を利用して下さい。ズボンを引き上げる時は、座った状態で膝上まで上げておきます。出来るだけ立位をとらない事が大事です。また、和式トイレは利用しないでください。




骨転移のリスク管理

易骨折

骨転移のリハビリテーションで理学療法士が一番慎重になるべき点は、運動させた事で骨折を起こす事です。どの程度の負荷をかけて良いか主治医に聞いても「注意して」としか言われないケースもあります。

そこで、骨転移の方を担当する際には、スコアを付けます。

脊柱(背骨)へ骨転移したらSpinal Instability Neoplastic Score(SINS)

脊柱不安定評価(SINS)

上下肢へ骨転移したらMirelsスコア

長官骨評価(Mirelsスコア)

SINSまたはMirelsスコアの点数を参考にすることで、骨折のリスクを把握することができます。この点数は、患者さん自身も把握していてほしいと私は思います。骨転移があると言われたら、主治医もしくは担当理学療法士へスコアの点数を聞いて下さい。もし骨折しやすい点数だった場合、日常生活に注意が必要になります。

貧血

骨転移を起こすと、骨髄の造血機能が障害されるため貧血になることが多いです。

毎日血液データを見る事はないので、問診や身体所見から貧血の有無を判断します。

問診では、頭のふらつき、脱力がないか確認します。

身体所見では、顔面蒼白や下まぶた裏の血色を確認します。

貧血症状を我慢してリハビリ中に転倒し、骨転移の箇所を骨折する可能性もあるので、注意が必要です。

高カルシウム血症

血液内のカルシウム濃度が高くなる症状です。

骨転移が進行すると、骨にあるカルシウムが血中へ溶け出します。

最初は胃腸の調子が悪くなります。

さらにカルシウム濃度が上昇すると、吐き気や嘔吐、腹痛、食欲低下、便秘症状が表れてきます。

また、喉の渇きを訴え、水分を欲しがります。

重症例では、意識障害、昏睡となります。

骨転移で担当した症例

50才男性の肺がんstageⅣ。肺炎を起こし入院。酸素化が改善され、抗がん剤再開。理学療法開始。入院時はポータブルトイレへ移るのがやっとの状態だったが、3週間後には歩行器で30mは歩行可能となった。そんな時、本人から「足の力が入らない」との訴えあり。何とか歩けはしたが、明らかに足に力が入らない歩き方で、バランスが悪かった。考えられる原因は、骨転移、脳転移、脳梗塞、脊髄梗塞などであった。

原因を探るために理学療法評価を実施。血圧、脈拍などのバイタル変動なし。意識レベルは正常。認知面も保たれている。殴打痛を確認すると、背骨の真ん中くらいに鈍痛の訴えあり。運動麻痺は下肢のみに見られ、上肢は問題なく動いている。筋力(MMT)は下肢の筋肉は全て4レベル(5が最大、0が最小)と少し力が入りにくい程度。感覚は下肢の触圧覚、温痛覚は軽度鈍麻(少し鈍い)していたが、上肢は問題なし。打鍵器で腱反射を見ると、下肢は鈍麻、上肢は正常であった。下肢に偏って障害されている事が分かった。立位を保つことは可能だが、閉眼する(目を閉じる)とバランスが極端に悪くなり、倒れそうになる。

思考

バランスの悪さから小脳失調なども疑ったが、意識レベル正常、バイタル変動なし、下肢に偏った運動麻痺と感覚障害から、骨転移による脊髄神経の圧迫が考えられた。この時点ではどの髄節(脊髄の何番目)で障害を受けているか不明なので、更に精査する。

股関節周囲の筋肉は筋力低下があったので、更に上の方を検査した。デルマトームを見ると、横ストライプのように感覚が分かれてその領域を支配している。分かりやすい位置は、乳頭(ちくび)の胸髄4番目と、臍(へそ)の胸髄10番目です。臍を触っても感覚が落ちており、臍から乳頭にかけても同様に感覚が障害されていた。しかし、胸髄1-2が支配している腕の感覚は正常であった。感覚の境界線が乳頭にある事が分かり、胸髄4番目の脊髄神経が圧迫されている可能性があると判断された。

その結果をすぐに主治医へ報告し、MRI検査実施。胸椎4番目の骨転移による骨髄神経の圧迫が認められた。その後、放射線治療と薬剤療法が開始された。

MRI(骨転移)骨転移(デルマトーム)

以上のように、理学療法評価を行い、主治医へ報告した症例を提示しました。正確な検査結果を伝える事で、無駄な検査を省くことに繋がります。今回の主治医は呼吸器専門の医師でした。大学病院や国立病院では各専門分野の先生が常駐していますが、民間の病院では必ずそうではありません。理学療法士の評価内容が、医師の判断材料になります。




骨転移まとめ

骨転移を起こすと日常生活に支障が生じます。そのため理学療法士や作業療法士によるがんリハビリテーションが行われます。骨転移のリスク管理は、易骨折、貧血、高カルシウム血症です。それらに注意しながら装具療法や運動療法、疼痛緩和のためのマッサージが行われます。身体の評価は理学療法士が専門ですので、頼ってください。




参考文献

日本がんリハビリテーション研究会. がんのリハビリテーションプラクティス. 金原出版.pp118-146.

島崎寛将. 緩和ケアが主体となる時期のがんのリハビリテーション. 中山書店.pp68-79.

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