免疫の仕組み・免疫を高める方法

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「がんと闘うためには免疫を高める事が大事です。」と言われます。

私も最初はそうだなと疑問を持たずに思っていました。

数年前、免疫の研究に一部関わる機会があり、初めて「免疫」を勉強しました。

そこで思ったのは、世の中が考えている免疫と、医師や研究者の考える免疫には大きな開きがあるという事でした。

それを伝えるために、免疫について簡単に述べていきたいと思います。

また、巷で噂の免疫を上げる方法について、文献的考察を加えています。

運動、温泉、食べ物、笑いなどについて調べていますので、参考にしてください。

免疫の仕組み・免疫を高める方法

免疫の仕組み

世間でいう免疫

皆さんが思っている免疫を、「広義の免疫」と呼ばせて頂きます。広義の免疫は、自然免疫と獲得免疫による生体防御の全体を指します。この自然免疫と獲得免疫が働くことで、私たちの身体は、病気を自然治癒し、感染拡大を防ぐことができています。自然免疫と獲得免疫について簡単にまとめます。

自然免疫

自然免疫

自然免疫は、生体防御の最前線です。異常な細胞(がん細胞)を感知し、排除します。
ここで働くのはナチュラルキラー細胞(NK cell)、マクロファージ、補体(ほたい)、顆粒球(主に好中球)です。
①好中球、マクロファージ、樹状細胞は生体外から侵入したウイルスや抗原を貪食します。がん細胞を攻撃するのは主にナチュラルキラー細胞(NK cell)です。ナチュラルキラー細胞(NK cell)は常に体内を巡回して、がん細胞が発生していないか監視をしています。

②マクロファージと樹状細胞は、貪食した抗原の情報を、リンパ節へ遊走してヘルパーT細胞(CD4+T cell)へ伝えます。そのため、抗原提示細胞と呼ばれます。伝令兵のような働きです。

獲得免疫

獲得免疫

①抗原提示されたヘルパーT細胞(CD4+T cell)は、サイトカインを放出し、キラーT細胞(CD8+T cell)やB細胞を活性化させ、がん細胞を攻撃します。

②B細胞に攻撃したがん細胞の情報が記憶されます。同じウイルスや抗原が身体に入ってきても、B細胞に蓄積された記憶情報により、素早く撃退可能です。B細胞は、抗原を大量に作りだす事ができます。

T細胞はどこで作られるかご存知ですか? 正解はずばり骨髄です。骨髄で作られ、胸の所にある胸腺で成熟されます。胸腺は加齢とともに機能が低下していきます。歳をとると免疫が落ちる理由は、胸腺の機能低下も一因です。

医師や研究者の指す免疫

免疫チェックポイントとリガンド

こちらの免疫を「狭義の免疫」と呼ばせて頂きます。私が勝手に呼んでいるだけなので、誰にも通じません。狭義の免疫は、ナチュラルキラー細胞(NK cell)やキラーT細胞(CD8+T cell)とがん細胞のガチンコ勝負を指します。

免疫チェックポイント分子とリガンド

がん細胞には、キラーT細胞の働きを弱体化させる抗原(リガンド)が、がん細胞表面に発現していることが分かっています。これらは免疫チェックポイント分子と呼ばれ、通常は無失序にキラーT細胞が細胞を破壊することを抑制するために備わっています。
なぜがん細胞はキラーT細胞を弱体化させるリガンドを持っているのでしょうか。理由として、サイトカインの異常やがん細胞の遺伝子異常などが考えられます。
細胞表面に発現している抗原は無数に存在し、まだ解明されていないものも多いです。

以上のように、世間のいう免疫とは、自然免疫~獲得免疫までの範囲で起こる免疫反応を指しています。

がんが治る!と豪語している健康食品を見かけますが、広義の免疫をいくら強化しても倒せないから、がんは難治性なのです。

免疫を高めてがんが治るとしたら、それは狭義の免疫によるがん治療が開発された時だと思います。

私たちが自らできることは、広義の免疫を高め、がんの合併症を重症化させない体つくりを行うことです。それはとても重要だと考えています。

広義の免疫を高める方法

適度な運動を続ける

運動とは体組成の約40%を占める体内最大の臓器、骨格筋(筋肉)を刺激することです。
骨格筋の筋細胞からサイトカインが放出されています。筋細胞から放出されるサイトカインを、マイオカイン(myokine)と呼びます。運動する事でマイオカインであるインターロイキン6(IL-6)などが発現、分泌され、免疫応答に関わります。
週3回のジョギングを続ける事で、広義の免疫を高めることができます。
しかし、激しい運動は逆効果になるかもしれません。強い負荷を筋肉にかける運動(重量挙げ、短距離走など)は、筋肉の損傷をもたらします。筋肉の修復に免疫応答が働き、全身の免疫は一時的に低下します。筋肉増強は大事ですが、体調に合せて計画的に行う方が良いでしょう。

参考文献
・鈴木克彦.メカニズムをさぐる?サイトカイン. 臨床スポーツ医学Vol.19, No.11, 2002.
・杉本研.筋由来サイトカインmyokine. 臨床整形外科. 48巻5号.2013.

入浴・温泉はサイトカインの発現を上昇させる

温泉は古来から身体に良いとされている伝統療法です。現代医学では、温熱療法に位置付けられます。温泉・入浴の効果は全身の血流増加、沈痛効果、自律神経を整えるなどが挙げられます。免疫の効果として鍵になるのは熱ショックタンパク質(heat shock protein:HSP)を介したサイトカインのコントロールです。HSPは熱刺激により発現、活性化します。
温度も重要です。身体の細胞が熱を感知するときの受容体として、トリプチャネル(TRPチャネル)の存在が明らかになっています。温度で変わるのは、TRPv1~TRPv4のトリプチャネルです。TRPv1~TRPv4の刺激の違いにより、身体に起こる反応も変わるので、適切な温度で温泉・入浴を行うことが大事です。
私のお勧めする温度と時間は、40-41℃で20分です。そして、入浴後に身体を冷やさないよう、すぐに身体を拭いて服を着る事です。この狙いは、深部体温を1度上昇させる事です。40-41℃で20分で深部体温を1℃上昇させ、すぐに服を着て身体を冷やさない事で上昇した深部体温を保持するようにします。先ほど述べたHSP 、TRPv4のトリプチャネルによる(広義の)免疫変化が期待できます。
少し難しくなってきましたすみません。簡単に説明しようと思っていますが、簡単に説明出来ないほど複雑な変化が起こっています。

参考文献
・児島大介.温泉入浴により血中IL-6濃度は増加する. 理学療法学Supplement 2009(0), A4P1044-A4P1044, 2010.
・森尾泰夫.温泉を利用したリハビリ療法最前線.
http://www.hosp.misasa.tottori.jp/about/onsen/img/pdf_katsuyou01.pdf
・富永真琴.TRPチャネルと感覚.顕微鏡vol.48. No4.pp222-226. 2011

睡眠時間の確保とリズムの調整が大事

睡眠は大事です。しかし、どの位眠ればよいのでしょうか。
成人1人あたりの最適睡眠時間は6-8時間
1日6時間以下の睡眠不足が続く状態を、「睡眠負債」と呼びます。週末やまとめて睡眠時間をとれば解消できると考えている人もいますが、それは逆効果です。休日でも同じ時間に起床し、睡眠のリズムを整えましょう。昼間の眠気が日中の活動に影響を及ぼす場合は、昼寝を10-20分すると良いです。

夜間断眠により夜間IL-6のレベル低下、ナチュラルキラー細胞の異常活性、CD8養成細胞の低下が報告されています。最適睡眠は1日6-8時間であり、6時間以下の短睡眠では免疫機能低下、疲労感、慢性的ストレスになるという報告があります。逆に睡眠時間が8時間以上だと、日中の集中力低下や抑うつ気分になりやすいようです。

参考文献
・藤原憲治.慢性疲労における睡眠障害および免疫系の動態に関する研究. 京府医大誌 118(12), pp823-841.2009.
・岡村尚昌. 睡眠時間は主観的健康観及び精神神経免疫学反応と関連する. 行動医学研究 vol15. No1.2010.
・篠原淳一.睡眠負債の解消法.山口県医師会報 1907.2019.

栄養を考えた免疫アップの食事

食事における免疫向上は、腸内環境を整えることにあります。腸内細菌が全身免疫系に影響するという報告が相次いでいます。腸内環境を整えることで免疫チェックポイント阻害剤の抗腫瘍効果が高まることも判明しています。腸内環境を整えるような食事を摂る事は、免疫を高める事に繋がります。

にんにく(アリイン)

ニンニクにはAlliin(アリイン)が豊富に含まれています。アリインは有機硫黄含有植物化学物質で、強力な抗菌活性作用があります。アリインは小腸と盲腸の微生物へ影響し、腸管の免疫ネットワークを改善させます。また、にんにくは深部体温を下げない効果があると言われており、恒常性の維持を助けてくれます。

参考文献
・Zhang C. Alliin alters gut microbiota and gene expression of colonic epithelial tissues. J Food Biochem. Apr;43(4).2019
・el-Sabban. Garlic preserves patency and delays hyperthermia-induced thrombosis in pial microcirculation. Int J Hyperthermia. Jul-Aug;12(4):513-25. 1996.

納豆(納豆菌)

納豆には地球最強の菌と呼ばれる納豆菌が存在します。納豆菌は100℃で熱しても死滅しない最強菌です。腸内細菌に働きかけ、腸内環境を整えてくれます。小腸上皮細胞と免疫細胞の活性化効果もあります。
納豆に含まれる納豆キナーゼ(タンパク質消化酵素)は血液をサラサラにしてくれますが、抗血栓薬を服用している人は控えるよう注意が必要です。

ヨーグルト(乳酸菌)

「腸に働く乳酸菌」というCMでおなじみの乳酸菌です。その通りに腸へ働き、免疫機能を高めてくれます。乳酸菌は夕食後に食べた方が良いと聞きました。就寝時に腸内細菌は活発になるので、朝より夕方が良いそうですよ。

乳酸菌の効果

  1. T細胞調節効果
  2. 炎症性・抗炎症性サイトカイン調節
  3. 腸管の抗体産生促進
  4. 腸内フローラの改善によるNK細胞活性
参考文献
・八村敏志.乳酸菌の免疫調節機能. jpn J. Latic Acid Bact.Vol18.(2).

人参(β-カロテン)

人参に多く含まれるβ-カロテンは、抗酸化作用と免疫の機能保持、後進に寄与すると報告されています。β-カロテンはプロビタミンAであり、体内でビタミンAに変換されます。ビタミンAは視覚に効果的ですが、他にも抗酸化、遺伝子の転写調整、免疫機能の維持、細胞と分化の制御に効果的です。
ビタミンAは脂溶性ビタミン(水に溶けにくく、熱に強い)なので、加熱しても良いですが、油で炒めて摂取したいです。スムージーにして摂取する方法も美味しく摂取できて良いです。なるべく皮を取り除かずに摂取して下さい。最近はβ-カロテン入りトマトも見かけます。色が人参の色してますね。

参考文献
・山西倫太郎. 食品成分β–カロテンがヒト単球系免疫細胞に及ぼす影響の解析
・高橋典子.ビタミンAとβ-カロテンによる疾病の予防と治療. オレオサイエンス 第14 巻(12).2014.

レバーや牡蠣(亜鉛)

現代人は亜鉛不足と言われます。亜鉛が存在しないと機能しないタンパク質は体内に300種類も存在しています。免疫にも関与しており、体内の免疫を活性化させるためには、細胞内亜鉛濃度の変化が重要であることも分かっています。先に述べた自然免疫、獲得免疫の両方に、亜鉛は必要です。
亜鉛不足を補うには、主食を白ご飯にすることです。そして、牡蠣(含有量13.2mg/100g)やレバー(含有量3.8-6.9mg/100g)もとるようにしましょう。しかし、牡蠣とレバーは好みが分かれます。私はどちらも大好きです!もし苦手な方は、牛肉(含有量3.0-4.9mg/100g)や牛ひき肉(含有量5.2mg/100g)、チーズ(含有量3.9-7.3mg/100g)、卵黄(含有量4.2mg/100g)を食べるようにして下さい。

参考文献
・平野 俊夫. 栄養素「亜鉛」は免疫のシグナル. 理化学研究所. 2006.
・西田 圭吾. ここまで分かった亜鉛の免疫システムにおける役割. 日衛誌68, pp145–152. 2013.

海藻(フコイダン)

昆布、ワカメ、モズクなどの海藻に含まれるフコイダンは、高粘性の多糖類で、健康食品として注目されています。免疫系への関与も指摘されていますが、有意な増加を認めない症例もあるようです。但し、海藻類の食物繊維を摂取すると快腸になります。便秘の方にはおススメしたいです。個人的には刻みめかぶを買って、豆腐や納豆に混ぜて食べてます。美味しいですよー!

参考文献
・鈴木信孝.がん患者に対するガゴメ昆布フコイダンの長期摂取の安全性評価. 日本補完代替医療学会誌. 第10巻(1)pp17-24.2013.

きのこ類(β-グルカン)

β-グルカンはきのこ類、酵母類、海藻類、穀類から産生される多糖類です。β-グルカンはマクロファージやNK細胞の自然免疫を活性化させるのみならず、腸管粘膜保護作用や獲得免疫のB細胞の活性も報告されています。

参考文献
・大星航.腸管免疫に対するβ-グルカン及び乳酸菌の効果. 医学検査 Vol.63 No.6 2014.

青魚(オメガ3脂肪酸)

オメガ3脂肪酸という言葉を知っていますか?植物脂、魚類に含まれるEPA(エイコサペンタエン酸)やDHA(ドコサヘキサエン酸)と言えば知っている方も多いと思います。オメガ3脂肪酸は体内で生成できないので、外部から食物として摂取する必要があります。
オメガ3脂肪酸が抗炎症作用を有する事は有名です。しかし、免疫に関する報告はまだ少ないです。術後の炎症性サイトカインを抑制し、術後創傷治癒を促進させるという報告を見ると、広義の免疫に多少は関与していそうです。
オメガ3脂肪酸はサバ缶やサンマ缶に多く含まれています。私は生野菜にサバ缶を混ぜて食べたりします。缶詰の汁まで摂取するようにしています。

参考文献
・溝口公士. がんとEPA. 日本経腸栄養学会雑誌. 30(4). pp941-946. 2015.
・田中 芳明. 免疫栄養. 2005年度. 前期日本消化器外科学会教育集会

笑いの効果

笑うことは身体にいい、心がスカッとする、免疫が向上するなどと言われます。笑いの研究は欧米を先駆けとして多くの報告があるようです。笑うにも分類がありそうです。大爆笑、照れ笑い、愛想笑い、頬笑みまで、笑う理由やその場の心理により笑いの効果が変わると想像できます。そのため、研究も一筋縄ではいかないでしょう。笑いの効果の報告では、唾液の免疫グロブリンが増加するという免疫系の報告もあります。
しかし、病気になり笑顔が減る事は当たり前です。その中で、笑えと言われても難しいですね。入院中の方達と一緒に笑いヨガを経験した事がありますが、自然と笑いがでてきました。おススメです。

参考文献
・三宅優. 健康における笑いの効果の文献学的考察. 岡山大学医学部保健学科紀要, 17:pp1-8.2007.

免疫まとめ

狭義の免疫と広義の免疫について述べました。世の中で○○をしたら免疫を高めるという効果の大半は、広義の免疫を指します。栄養療法や統合医療の動物実験や人に対する免疫の検証を見ても、実験結果で示されているのはサイトカインです。ですが、広義の免疫を高めることは良い事です。感染症や腫瘍熱が出た際に、広義の免疫を高めている方が悪化しません。自分で出来る広義の免疫を高めるトレーニング・方法は積極的に取り入れるべきだと考えます。是非試してみて下さい。