がんと栄養療法

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全ての病気に共通して言えることは、栄養が大事だと言う事です。

医療機関で栄養療法の重要性は周知されており、栄養サポートチーム(NST)という組織がどの病院にも作られています。NSTは医師、看護師、栄養士、言語聴覚士、歯科衛生士を中心に構成されており、多様化するがん治療を効果的に行えるように支援する、縁の下の力持ち的存在です。

栄養療法は専門性が高く、素人には難しい領域でもあります。そこで、がんの方周知してほしい事をなるべく簡潔に、噛み砕いてまとめました。

がんと栄養療法

栄養サポートチーム(NST)

NSTは医師、看護師、栄養士、言語聴覚士、歯科衛生士などで構成されています(病院によりメンバーは多少異なる)。NSTは入院患者の栄養状態を評価し、適切な栄養療法を提言します。提言する内容は、栄養の補給方法指導、口腔ケアや嚥下状態、食事方法、ポジショニングなどです。

がんと栄養障害

がんによる栄養障害の原因

  • がんが産生する異常なサイトカインが原因で、代謝障害を起こす
  • 胃・腸管の狭窄により食欲が低下
  • 胃・腸管(消化管)出血により吐血・下血をきたし食欲が低下
  • 脳腫瘍や脳転移により脳圧が亢進し食欲低下
  • 骨転移により高カルシウム血症となり食欲低下
  • 多発転移により内臓の臓器の機能が低下し栄養障害
  • 治療の作用・副作用による栄養障害
  • 2.不適切な栄養障害

不足する原因

エネルギー(カロリー)不足

人間の「エネルギー」は糖質、脂質、蛋白から生み出されています。

摂取した栄養素を取り入れるために、「代謝」(組織内で起こる化学変化の全体)を起こし、エネルギーを産生します。

これをエネルギー代謝と言います。

そして、エネルギー代謝の単位が「カロリー」です。

生体内のがん細胞がサイトカインを産生・分泌することで、エネルギー代謝が活発になり、エネルギー不足に陥ります。

がんの栄養療法

それでは栄養素ごとに解説していきます。

糖質不足

がん組織はグルコースをエネルギー源として消費し、乳酸を産生しています。

その乳酸は肝臓で再び糖に変換され、がんのエネルギー源として利用されます。

肝臓で乳酸から糖へ変換される働き(Cori回路という)が亢進されますが、筋肉に糖が取り込めないので血糖値が上がります。

がんと糖質について詳しく↓

がんの栄養は糖質だから、糖を摂…

必須アミノ酸不足

たんぱく質はアミノ酸の集合体です。

たんぱく質を栄養として利用するのに欠かせないアミノ酸を、必須アミノ酸といい、無くてもよいものを非必須アミノ酸と呼びます。

後述するたんぱく質の働きには、必須アミノ酸が必要です。

エネルギー同様に、生体内のがん細胞がサイトカインを産生・分泌することで蛋白(主に必須アミノ酸)が過剰に消費され、必須アミノ酸不足となります。

たんぱく質の働き

  • 古い組織を修復するのに利用
  • 糖質や脂質が不足するときのエネルギー源
  • 水バランスを保つ
  • 抗体産生に利用される
  • 酵素やホルモンの材料になる

がんとたんぱく質について詳しく↓

私は常にタンパク質が大事です!…

脂肪(必須脂肪酸)不足

必須脂肪酸とは、体内でほとんど産生できない脂肪酸のことです。

外から摂取するしかありません。

必須脂肪酸はDHA、EPAがCMなどでも有名ですね。

必須脂肪酸は細胞の膜を構成したり、血管壁、気管支の壁、血液の粘膜などにも働きます。とても重要です。

がん細胞により脂質分解が亢進し、脂肪不足になります。

脂質の働き

  • エネルギーになる
  • 皮下脂肪組織になる
  • 脂溶性ビタミン(D,A,K,E)を運ぶ
  • 消化と胃の働きを遅らせる
  • ホルモン、酵素、細胞膜の材料になる

水分・電解質不足

水(water)は生体の50-70%を占めています。

代謝の中でできる水は少ないため、外から摂取する必要がります。

栄養状態が不良になり、ナトリウムやカリウムといった電解質のバランスが崩れて浮腫や腹水がたまります。

そのため水分が体内へ還流できず、水不足となります。

ビタミン・微量元素不足

ビタミンは不可欠な栄養素で、脂溶性ビタミン(D,A,K,E)と水溶性ビタミン(B,C)があります。

ビタミンは体内で合成されず、食物として摂取する必要があります。

そのため食欲低下を起こすとビタミン不足に陥ります。

がんとビタミンについて詳しく↓

ビタミンは細胞の働きを補助する…




がんの栄養管理の原則

「できるだけ経口・経腸栄養を推奨し、経静脈栄養は補助的手段として検討する」が栄養管理の原則です。すなわち、静脈からの栄養は、口からもしくは腸に直接栄養を送れない場合にのみ検討するという事です。口から摂取できないとは頭頸部がんや食道がんの場合であり、経鼻胃管や経皮内視鏡的胃瘻造設術(PEG)による胃瘻からの栄養が推奨されます。

経口補助栄養剤

Gultamine-Fiber-Oligosaccharide(GFO)

GFO

GFOは少量の投与でも本来の腸管が有する機能を最大限に活かすために開発されました。GFOは消化管術後において早期から経口・経腸栄養が可能(手術吻合部に負担をかけないため)で、手術侵襲や絶食により生じていた腸粘膜の萎縮を抑制する事が可能です。また、口から食べられない進行、再発したがんの方へGFOを使用すると、唾液分泌促進、口腔内清潔、食欲回復、誤嚥性肺炎の予防、便秘改善などの効果があることも報告されています。
オピオイド鎮痛薬を使用している方は、便秘になりやすいです。GFOは便秘改善効果もあることから、排便コントロールも可能になります。

インナーパワー

インナーパワー

がんにより障害される正常な組織の回復と改善を向上させるために開発されました。インナーパワーはタンパク質合成の促進、乳酸の抑制効果、エネルギー代謝効率の向上、免疫能の改善、創傷治癒促進、生態環境の正常化などが期待されます。悪液質の症状を抑える効果も期待されています。

プロシュア

プロシュア

オメガ3脂肪酸を含んでいるため抗炎症作用が期待されます。亜鉛や食物繊維、オリゴ糖も含まれます。がんによる体重減少(CIWL)対策として使用され、体重減少の抑制、脂肪分解による体重減少の抑制、抗炎症作用、QOLの改善が報告されています。

アバンド

アバンド

褥瘡などの創傷治癒に必要なコラーゲン合成を促す栄養剤として開発されました。悪液質による筋タンパク分解を抑制、脂肪分解による体重減少の抑制が報告されています。

OS-1

OS-1

水・電解質補給もを目的として開発されました。所ジョージのCMでもお馴染みですね。
高度な脱水では輸液が行われますが、軽度、中等度の脱水ではOS-1が使われます。輸液と同等の効果が期待されます。在宅療養や終末期における水分・電解質補給の方法として活用されます。

経腸栄養剤

ラコールNF配合経腸用半固形剤

ラコールNF

液剤の経腸栄養剤を半固形化することで、通常の食事に近い形状で投与され、胃の生理的な運動を引き起こすことが期待され開発されました。がん悪液質の方にラコールを投与すると体重も増加する事が報告されています。

終末期のがん栄養療法

がんが進行し、悪液質の状態(体重減少、筋肉量減少、飢餓状態など)になると、栄養療法は逆効果になります。

先ほどがん患者ではエネルギー消費が増大するため栄養不足になるというお話をしました。

しかし、悪液質が出現すると一転、省エネモードにギアチェンジされます。

困難なのが、省エネモードで栄養不良になるという事です。

この時期では、栄養を補助しようと経口補助栄養を行うと、補給された栄養を消費できずに身体へ大きな負担をかけてしまいます。

即ち、栄養療法が余命を中の縮めてしまうかもしれないのです。

ギアチェンジの時期を境に、本人、家族の意思を優先した食事、栄養が行われます。

投与される必要カロリーも1/100に減らし、投与栄養素は糖質が中心になります。


がんと栄養療法まとめ

病院には入院患者さんの栄養をサポートするチーム(NST)があります。

がんとがん治療により栄養不足に陥るため、NSTのサポートが行われます。

がんと診断された時点から、栄養療法が必要です。

栄養不足を補うために、経口栄養補助剤が使われます。

静脈から栄養を投与するのは最終手段です。

まずは口から栄養を摂る事が優先されます。

しかし末期がんの栄養投与は逆効果になる事が報告されており、趣向を優先した栄養サポートが選択されます。

参考文献
・東口高志. 終末期がん患者のエネルギー代謝動態とその管理. 静脈経腸栄養. Vol24. No5. 2009.
・伊藤彰博. 栄養療法、経腸栄養剤. 静脈経腸栄養.21(2). pp120-132.
・柴田賢三. 医療麻薬投与中の終末期がん患者におけるGFO投与の効果に関する臨床的研究. 日本緩和医療薬学雑誌 5;pp1-5.2012.