緩和ケア病棟の実際と課題

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緩和ケア病棟について、どんなイメージを持っていますか?ツイッターで、フォロワーの方達へ問いかけた所、多くの意見が帰ってきました。死をまつだけの場所、何もしてくれないというネガティブイメージの方も居ました。反対に、看護師が優しい、穏やかに過ごせる場所というポジティブイメージの方も居ました。緩和ケア病棟が発足して10年未満。まだまだ世間の認識と緩和ケアの現状に差があります。
私が働いていた病院の緩和ケア病棟の取り組みを例に挙げて、緩和ケア病棟の役割を述べていきます。また、医療者側の視点に立った緩和ケア病棟の現状と課題についても載せています。

緩和ケア病棟

治癒を目指した治療が困難になった本人またはその家族に緩和ケアを行うとともに、外来や在宅への円滑な移行も支援する病棟です。

「緩和ケアとは、治癒を目指した治療が有効でなくなった患者に対する積極的な全人間的ケアである。痛みやその他の症状のコントロール、精神的、社会的、そして霊的問題の解決がもっとも重要な課題となる。緩和ケアの目標は、患者とその家族にとって出来る限り可能な再考のQOLを実現することである。」

緩和ケア病棟のケア内容

緩和ケアの患者中心のケア

緩和ケア病棟には、医師、看護師、介護士、薬剤師、栄養士、リハビリ関連職種などで構成される緩和ケアチームがいます。

緩和ケアチームが患者さんに行う最初の作業は、患者さんの苦痛を軽減させることです。

苦痛は身体的苦痛(がん性疼痛や骨転移など)のみならず、社会的苦痛(働けない、社会参加していない事への劣等感など)、スピリチュアルペイン(死に対する悩みや生きる意味への苦痛)も含まれます。

その他にも、ネイリスト、整体師、美容師、アロマ、鍼灸師のサービスを提供している緩和ケア病棟もあります。

緩和ケア病棟へ入棟する前には、情報提供書などから本人の情報が伝えられます。それを基に、緩和ケアチームでは受け入れ準備を行います。

いざ入院されたら、医師や病棟看護師と面談を行います。

改めて本人または家族の意思を確認し、緩和ケアチーム内で緩和ケア計画を立案します。

緩和ケアの例

ケース1

膵臓癌ステージ4の男性60歳。妻と子供の二人暮らし。A病院で背骨に骨転移もある。余命は半年と宣告された。抗がん剤治療を行ったが副作用に苦しみ、1クールで中止した。家族が緩和ケア病棟へ申し込み、入院する運びとなった。入院当初は自暴自棄になっており、このまま死ぬから放っておいてくれという態度だった。膵臓癌の関連痛であった背部痛のコントロールが行えた当たりから、本人より「もう一度自宅へ帰りたい。半年後に産まれる孫の顔を見たい」という欲求が聞かれるようになった。退院後に病態が悪化した場合は当院に再入院する方針となり、一時退院となった。退院前には骨転移した骨に負担がかからない動作の練習を理学療法士が行った。退院から3か月後に状態が悪化し再入院。孫の顔は見れずに…。その後しばらく経過した後、了承を得た妻を含めたカンファレンスが行われた(デスカンファレンスと呼ばれます)。妻より「緩和ケア病棟へ入院した時は、家族も受け付けない精神状態でした。家族も本人とどう関わっていいか分からなかったです。とても辛かった。こちらで痛みを軽くしてもらってから、一変しました。今までご飯を作らなかった夫が、私に朝ご飯を作ってくれたんです。嬉しかったです。孫に合わせてあげれなかった事は心残りです。ありがとうございました。お世話になりました」。
緩和ケアチームとしては、目標としてた痛みを和らげたこと、そしてそれをきっかけに本人が前向きに残りの人生と向き合えたことが良かったと感じました。

*骨転移についてはこちらで復習を☞骨転移のキホン

ケース2

胆管がんステージ4の70歳男性。治療開始2年目に多発肝転移となり余命1年と言われた。その10カ月が経過した頃に、緩和ケア病棟へ入院となった。緩和ケアの方針は、腹水コントロールを行い、症状緩和を目指すことだった。筋力低下を予防するためがんリハビリテーションが行われ、腹水が一定量たまると、KM-CARTで腹水を抜いていた(2週間に1回)。腹水の貯留する間隔が短くなり、外出も困難になりつつあった頃、本人より温泉に入りたいという希望があった。一人で外出させることは困難だったので、緩和ケアの男性スタッフが同行して温泉へ行くことになった。事前に温泉施設へ了承を頂き、家族湯へ入ることができた。本人より「気持ちよかった。ほんとにありがとう。また行きたいな。よろしくね。」その後腹水を抜いて身軽になったタイミングで、2回ほど温泉へ行くことが可能であった。
緩和ケアチームとしては、腹水による症状緩和を図れたことが、温泉という希望を叶えることにつながったと思う。スタッフが勤務中に温泉に同行して入浴することの前例がなかったけれど、これも緩和ケアの関わり方であると気づくことができた。

*肝臓がんの基礎知識についてはこちらで復習☞肝臓がんの基礎知識




緩和ケア病棟と一般病棟との違い

ずばり、緩和ケア病棟は延命処置をしないことが大きな違いです。

状態が急変した際に、心肺停止や人工呼吸器を設置せず、自然のまま最期を迎えるよう支援します。

緩和ケア病棟では最初にDNAR(do not attempt resuscitate = 心肺蘇生を行わないこと)を確認されます。

DNARは心肺蘇生こそ行いませんが、何が起こっても何もしないという意味ではありません

例えば、食事が入らなくなった際に、別の方法で栄養状態を改善しようという処置は行われます。

緩和ケア病棟の課題

がん患者が増える今、緩和ケア病棟が不足しています。

また、入院期間も1カ月に限定されている病院も珍しくありません(後で述べます)。

またある病院の例では、緩和ケア病棟待ちの方が、緩和ケア病棟入院者よりも先に亡くなるという事が相次ぎました。

緩和ケア病棟をホテルのように使われる方も少なくないようです。

比較的余命の長い前立腺がんの方が長期に入院してしまうと、緩和ケア病棟が稼働しません。

必要な方に必要なケアを行う事が、緩和ケア病棟の役割として望まれています。

緩和ケア病棟の料金

緩和ケア病棟の入院料は、医療法により決まっています。そのため、どの病院へ入院しても、一定の支払いになります。

緩和ケアの料金

1日5万円、、、驚きの高値です。30日入院すると、150万円です。

この入院料には、検査代、薬剤代、リハビリテーション料が含まれています(食事代、おむつ代などは別)。

医療者の間では、「まるめ」と言います。

全てを含んだ料金という意味です。

この料金は患者さんに全て請求されるわけではありません。

請求先は社会保険であり、患者さんは1-3割負担となります。

さらに高額療養費制度があるので、収入により異なりますが、実際の手出しは10万円程度となります。

医療従事者の葛藤

病院経営の視点でみると、緩和ケア病棟の経営はとても潤います。そのため、高級ホテルのような佇まいとサービスを行う病院も多いです。

上記のように、緩和ケア病棟ⅠとⅡでは1日2千円の差があります。この差は、患者さんの入院日数にあります。

国は緩和ケア病棟の回転率、稼働率を上げるために、病院へ高い保険収入を求めるなら、緩和ケア病棟に入院する患者さんの在院日数を平均15日未満にしなさいという施設基準を設けました。

そのため、病院側は余命1カ月以内の方を緩和ケア病棟へ入院させたいと考えています。

事実、緩和ケア病棟へ入院したいと望んでいても、余命が1ヵ月以内にならないと入院できないと言われるケースは多いです。

31日以上の入院は、収入が減りますからね…。

さらに、一般病棟へ入院していたがんの患者さんを、状態が悪化した時点で緩和ケア病棟へ移動させ、在院日数を短縮させているという事が問題になっています。

どの病院でもそうですが、患者さんのために医療を提供したい現場と、黒字経営を行いたい経営・事務方との温度差が生じています。

その葛藤の中で医療従事者は働いています。




緩和ケア病棟まとめ

緩和ケア病棟とは治癒を目指した治療が困難になった本人またはその家族に緩和ケアを行うとともに、外来や在宅への円滑な移行も支援する病棟です。

しかし、希望した時期に関分け病棟に入院できるとは限りません。

また、入院期間も1ヵ月と決められている病院も多いです。

がんの方が増える今、緩和ケア病棟は順番待ちの状態です。早めに申し込みを行う必要があります。

参考文献
島崎寛将. 緩和ケアが主体となる時期のがんのリハビリテーション. 中山書店.
辻哲也. がんのリハビリテーションマニュアル. 医学書院.