がんとケトン食


ケトン食が、がんに有効という広告を目にします。

ケトン食は難治性のてんかんに有効とされています。

全く病気の機序が異なるケトン食が、なぜがんに有効なのでしょうか?

ケトン食について、文献を調べ、がんに効く根拠を探してみました。

がんとケトン食

がん細胞は糖質を栄養に活動しているから、糖質制限は有効であると言われています。

その根拠は様々ですが、多くのがん細胞の細胞膜にはブドウ糖を取り込む受容体(グルコース・トランポーター)が正常の細胞と比べて数十倍発現しているため、糖質制限が有効とされています。

ケトン体って?

糖質を制限するとインスリン濃度が低下します。

するとグルコースの消費を抑えるために脂肪の分解が肝臓で促されます。

肝臓の脂肪分解により産生され、血液に放出されるアセトン、アセト酢酸、β-ヒドロキシ酪酸のことをケトン体と言います。

血中に放出されたケトン体は、心臓や骨格筋、脳などに送られ、ミトコンドリアで代謝され、エネルギーとして用いられます。

*血液検査でケトン体を測定可能ですが、これはアセトンとアセト酢酸のみです。

なぜがんにケトン食?

ケトン食

ケトン食は糖質を極端に制限する高脂肪食のことです

主なエネルギー源として脂質を用い、食事を摂取しながらケトーシスを誘発する治療食です。

がん細胞はケトン体をエネルギーとして生存しにくい特性を利用し、糖質制限+ケトン食を摂取することで、がん細胞を兵糧攻めにできると考えられます。

ケトン食では1日10gの糖質しか摂れません。

ケトン食は糖質制限というより糖質カットですね。

ケトジェニックダイエットのメニューを見ていると、最初から1日30gを推奨しているものもありますが、ケトン食療法の専門家からみると、それではケトン代謝が促されないとのことです。

糖質は10gから初めて2週間後に20g、その後30gと、総ケトン値をみながらアップできるようです。

私たちの主食は米です。米は炭水化物(糖質+食物繊維)であり、食べると血糖値が上がります。

日本の歴史から農作により田畑を耕し、米を作り、食を豊かにしてきました。

そのため、私たちは糖代謝でエネルギーを産生し、活動しています。

農作を行う前は、狩猟がメインで、主食は肉だったはずです。

そのため当時のエネルギー源は脂質とタンパク質で、ケトン代謝だったと推測されます。

食事を変えると代謝も変わるのです

糖質を制限し、脂質メインの生活に戻すことは、現代病の予防に繋がる可能性がありますね。




ケトン食の副作用

  • 体重減少
  • 無気力、むかつき、吐き気
  • 急性膵炎
  • LDLコレステロールの増加
  • 脂肪肝
  • 高尿酸血症
  • 中鎖脂肪酸摂取による下痢
  • アシドーシス

ケトン食が全て身体に良いわけではありません。これらの副作用を考えると、ケトン食は医師監修の下、行うべきだと感じます。

糖質を減らしてカロリーは足りるのか?

糖質制限はがん細胞へのエネルギーを断つ事で兵糧攻めにできるかもしれませんが、正常細胞のエネルギーも欠乏させることにつながらないのかという疑問が残ります。

カロリー計算は、使う食材を足し算して算出します。

原則、1日の消費カロリーと1日の摂取カロリーのバランスがとれるように計算します。

ケトン食の摂取カロリーは一日1.500キロカロリーくらいでしょう。

ここまではケトン食について述べてきましたが、ここからががんとケトン食の本題です。

がんとケトン食

アメリカで進行がん患者に対し、炭水化物の食事制限療法の研究が行われました。

食事療法のみでがんの進行を抑制する効果は乏しかったです。

今後期待されるがんとケトン食は、抗がん剤とケトン食との併用療法だと思います。

大腸癌ステージⅣの方を対象にケトン食と抗がん剤の併用効果を調べた研究では、抗がん剤のみと比較して奏効率、病態コントロールともに良好な結果を見出しています。

しかし、ケトン食の効果をうたった研究は、ほとんどが細胞実験か動物実験です。

ヒトを対象とした研究は少なく、また対象人数も10人程度でどれもエビデンスを示す研究には程遠いと感じています。

ケトン食例

ケトン食

ケトン食は脂質86%なので、ほぼ肉や魚のイメージです。

しかし、脂質ばかりを口から摂取するのはきついですよね。

そこでMCTオイル(Medium Chain Triglycerideの略で、中鎖脂肪酸のこと)を使い、効率よく脂質代謝を促します。




ケトン食まとめ

ケトン食による糖質制限は、糖質を栄養とするがん細胞を兵糧攻めにして活動を抑制することを狙った食事療法です。

その有効性については様々な報告がありますが、エビデンスとして確立させたものは確認できませんでした。

あくまでも補助代替療法として考える必要がありそうです。

<がんと栄養療法についてはこちらの記事を参考に♪>

参考文献
・吉川健司. ステージⅣ進行再発大腸癌に対し修正MCTケトン食を1年間併用した化学療法の臨床効果に関する検討日本静脈経腸栄養学会雑誌 33(5):1139-1146. 2018
・山本祐司. ケトジェニックダイエットがヒトの健康に及ぼす影響について. 化学と生物 54(9).2016.
・chikamoto A. Preoperative High Maximum standardized uptake value in association with glucose transporter 1 predicts poor prognosis in pancreatic . cancer surg oncol 7.pp2040-2046.2017.