がんと糖尿病はとても深い関係にあります。
私が自身の病院で数年前に調査したデータでも、がんと診断された方の約半数は糖尿病または高血糖でした。
なぜ糖尿病はがんと関連しているのか。これは日本糖尿病学会と日本癌学会が合同委員会を立ち上げ、提言をまとめています。
それらを分かり易く、まとめていきます。
がんと糖尿病
糖尿病とは?
糖尿病という言葉はメジャーですが、どんな病気かご存じない方も多いのでは。
糖尿病とは、血液中にブドウ糖が増える病気です。
1型糖尿病と2型糖尿病があり(妊娠糖尿病などは除いて)、生活習慣の乱れが原因になるのは2型糖尿病です。
主な3大症状は眼の障害、腎臓の障害、末梢神経の障害です。
通常、血液中のブドウ糖は、膵臓からでるインスリンというホルモンにより筋肉へ取り込まれて消費されます。
しかし、糖尿病になるとインスリンが不足したり、分泌量がおちるなどしてブドウ糖が筋肉へ取り込まれなくなります。
このインスリンの働きが悪いことを、インスリン抵抗性と呼びます。
糖尿病とがん罹患リスク
アメリカの糖尿病学会とアメリカ癌学会の報告では、糖尿病は肝臓がん、膵臓がん、子宮内膜がん、乳がん、膀胱がんのリスクを増加させるとされています。
しかし、前立腺がんのリスクは減少していると報告しています。
日本人を対象とした調査では、糖尿病は大腸がん、肝臓がん、膵臓がん、腎臓がん、子宮内膜がん、卵巣がんのリスクを増加するという結果となりました。
また糖尿病の方ががんに罹患した場合に、予後が悪いと報告されています。
メタボリックシンドロームになると、男性では肝臓がん、女性では膵臓がんのリスクが上昇します。
アルコール性肝疾患になると、肝臓がんのリスクが高まります。
これらの結果を見る時に注意して頂きたいのは、がんになって糖尿病になった可能性もあること、年齢や喫煙、食事などは考慮されていないことです。
しかしながら、糖尿病とがんに関連があることは、疑いようのない事実です。
糖尿病によるがんリスク発生のメカニズム
インスリン抵抗性と高インスリン血症
インスリンが筋や肝臓で消費されない状態(インスリン抵抗性が高い)が続くと、血中にインスリンが蓄積し、高インスリン血症となります。そうしますと、IGF-1、PL3/Akt、Ras/MAPが上昇します。その結果、細胞が増殖し、がん化した細胞をアポトーシス(細胞死)できずにがん細胞がふえ、がんになりやすくなると考えられます。
高血糖
血液中にブドウ糖が蓄積すると、血管壁の酸化ストレスを亢進させます。また、ブドウ糖が分解されたグルコースは様々な化学反応を経てピルビン酸となり、ミトコンドリアでエネルギーを産生します。高血糖の場合、この反応が過剰におこり、酸化ストレスによるDNAダメージを引き起こします。その結果、ダメージを負った細胞はがん化してしまいます。また、ワールブルグ効果よりがんの栄養は糖なので、高血糖状態はがんに栄養を与えてしまいます。
慢性炎症
糖尿病の方は肥満状態にあることが多いです。肥満細胞は慢性炎症を惹起させ、炎症性サイトカインを上昇させます。この炎症性サイトカインは細胞のがん化と密接な関係があります。また、糖尿病は細胞内の小胞体へ負担をかけ、慢性炎症による炎症性サイトインを惹起させます。肥満と糖尿病はともに炎症性サイトカインを上昇させてしまいます。
糖尿病とがんの共通した危険因子
糖尿病とがんに共通する危険因子は、肥満体型、身体活動量、食事、過剰飲酒、喫煙です。
肥満
肥満(BMI25kg/m2)は食道がん(腺がん)、大腸がん、膵臓がん、乳がん、子宮内膜がん、腎臓がんのがんリスクを確実に高めます(国際癌研究機関IARCの報告)。しかし、日本人では肥満とがんの関係は諸外国ほど強く関連がないとも言われています。
食事
赤肉、加工食品はがんのリスクを高めます。野菜、果物、食物繊維が多い食事は糖尿病とがんの双方のリスクを軽減させます。
喫煙
喫煙は肺がんと2型糖尿病のリスクを上昇させます。また、喫煙は喉、上部消化管、肝臓、膵臓、子宮頸部、腎臓、膀胱に対してがんの発生と関連しています。
アルコール
中等度以上のアルコール摂取はがんと糖尿病リスクが上昇します。中等度がどの程度かは、肝臓のアルコール分解能により個人差があります。
反対に、糖尿病とがんの両方の危険因子を下げると言われているのは、コーヒー摂取です。複数の論文で報告されています。あくまでも予防因子であり、推奨される位ですが。
糖尿病治療薬とがん
糖尿病治療薬とがんのリスクについては多くの報告があります。
インスリンは細胞増殖効果があるため、インスリンを分泌させる糖尿病治療薬は、がんを引き起こすリスクがあると考えられます。
世界各国で、糖尿病治療薬とがんの関係について、疫学研究やメタアナリシスの解析が行われていますので、糖尿病治療薬毎に紹介します。
しかし、結論から言いますと、糖尿病患者は複数の治療薬と複数の合併症があり、1つの薬剤におけるがんのリスクを同定することはとても困難です。
そのため、十分なエビデンスは存在していません。それを念頭において、読まれてください。
*糖尿病治療薬については、こちらを参考にしながら読んで下さい♪
インスリン製剤
ヨーロッパの研究でインスリングラルギン(静脈投与)の使用者におけるがんリスク上昇が報告されていますが、各国の報告では関連が認められておらず、結論が出ていない状態です。
インスリン分泌刺激薬
スルホニル尿素薬
香港の疫学研究ではスルホニル尿素薬でがんリスクが減少したと報告されていますが、一方で、台湾やイギリス、イタリアの研究ではスルホニル尿素薬の使用でがんリスクが上昇したと報告されています。いまだ一貫しておりません。
グリニド薬
検証が不十分なため、結論でず。
DPP-4阻害薬
GLP-1受容体作動薬
エキセナチドを服用した患者で、甲状腺がんの副作用が報告あり。
DPP-4阻害薬
シタグリプチンを服用した患者ですい臓がんの副作用報告あり。
α-グルコシダーゼ阻害薬
十分なデータはないが、台湾の疫学研究では、有意な関連は認められず。
配合薬のピオグリタゾン
アメリカ・フランス・ヨーロッパより膀胱がんのリスク上昇が報告されています。アジア人も同様に膀胱がんのリスクが上昇する報告があります。そのため、ピオグリタゾンの取扱説明書に「膀胱がんには投与しない」と記載されています。
ピグアナイド薬のメトホルミン
メトホルミンはがんのリスクを軽減されると考えられていました。しかし、近年の研究ではがんのリスクと関連しないと結論が出されています。メトホルミンは腎機能障害や肝機能障害をもつ患者には禁忌とされています。
がんと糖尿病まとめ
糖尿病とがんには深い関連があります。
糖尿病ががんになる要因は、高インスリン、高血糖、慢性炎症が考えられています。
また、糖尿病治療薬はインスリンを分泌するため、がんになるリスクが高いと考えられていますが、十分な根拠はありません。
がんの有無に関わらず、血糖コントロールが重要です。
参考文献
春日 雅人.糖尿病と癌に関する委員会報告.糖尿病56(6).pp374-390.2013.
後藤 温.糖尿病と癌に関する委員会報告 第2報.糖尿病59(3):pp174-177.2016.