腫瘍マーカーは、腫瘍(がん)の存在により血中に増加する物質をさし、がんの重症度を表す指標として用いられます。
腫瘍マーカーの検査は毎回ではなく不定期です。
主治医がどのタイミングで腫瘍マーカーを検査するのか疑問に感じる方も多いでしょう。
その理由は、腫瘍マーカーの見方と診療報酬を理解すれば分かってきます。
腫瘍マーカーを理解するためには、専門的な知識が必要ですが、出来るだけ分かり易くまとめました。
腫瘍マーカー
腫瘍マーカーの役割
- がんの病気決定
- がんの組織型
- 手術や化学療法の完成度
- 再発がんの早期発見
腫瘍マーカーはがんの臨床で欠かせない存在です。
腫瘍マーカーは多くの種類があり、条件付き保険適応となっています。
しかし、腫瘍マーカーは健診などでの早期発見には向きません。
その理由は、特異度と感度が低いからです。
そのため、腫瘍マーカーの検査は、がん患者(がんがある事が確実な患者)のみが保険適応となります。
特異度と感度、陽性的中率
特異度とは、“ 疾患がない人の内、何人が陰性と判断されるかの割合 ”
⇒特異度が高いとは、疾患のある人、無い人の双方が陰性となりやすい(陽性となりにくい)検査です。そのため、陽性になった場合、その病気である可能性が高いと判断できます。
感度とは、” 疾患が有る人の内、何人が陽性と判断されるかの割合 “
⇒感度が高いとは、疾患のある人、無い人の双方が陽性となりやすい(陰性となりにくい)検査です。そのため、陰性となった場合、病気の可能性が低いと判断されます。
以上のように特異度と感度が腫瘍マーカーの検査には必要となりますが、臨床で知りたいのは、腫瘍マーカーの陽性結果が、どれ位の確率で癌陽性を反映しているか ですよね。
その指標として、陽性的中率(PPV:positive predictive value)があります。
これ以上は混乱するので割愛しますが、
陽性的中率は どれ位の確率で癌陽性を反映しているか とここでは理解してください。
腫瘍マーカーの保険点数
腫瘍マーカーを測定することで病院・診療所は診療報酬を算定できます。
しかし、それには様々な条件があります。
例えば、
「AとBを両方測定しないと算定できない」、
「乳がんにはAを測定した場合しか算定できない」、
「腫瘍マーカーは月1回のみ算定可能」 などです。
腫瘍マーカーを通院時に毎回測らない理由は、診療報酬上の理由とも言えます。
疾患別の腫瘍マーカー
大腸がん
CEA(癌胎児性抗原)基準値:5.0 g/mL以下
CA19-9 基準値:35.0U/mL以下
CEAは癌の進行度、浸潤度、転移の有無に比例して高値化します。
大腸癌Dukesの分類とCEA陽性率は相関します。
*CEAは大量喫煙、肝硬変、糖尿病、高齢者で高値となるので注意!
*CA19-9は消化器がん全般で高値となるので注意!
肝臓がん
PIVKAⅡ 基準値:40mAU/ml以下(固相型EIA法)
AFP 基準値:20ng/ml以下(RIA固相法)
原発性肝細胞がん(HCC)の特異度が高いのは、PIVKAⅡとAFPです。
PIVKAⅡはステージⅣで100%の陽性率ですが、ステージⅠでは0%となります。
一方、AFPはステージⅣこそ100%ですが、ステージⅠでも40%の陽性率となります。
両者は互いに依存していないため、両者を比較することで、肝臓がんの診断効率が上昇します。
なにより、両者を同時に測定しないと、保険適応となりません。
また、転移性肝がんでは、CEAが高い感度を示します。
肺がん
CEA 基準値:5.0 g/mL以下
SSC 基準値:1.5ng/ml以下
SLX 基準値:38.0U/ml以下
CYFRA 基準値:2.0ng/ml以下(IRMA法)
NSE 基準値:10ng/ml以下(RIA法)
肺がんの腫瘍マーカーの有用性は、画像診断に劣ります。
肺がんで腫瘍マーカーを測る意義は、がんのステージ推定と組織型の推定、経過観察のモニターです。
乳がん
CA15-3 基準値:25.0 U/mL以下
CEA 基準値:5.0 g/mL以下
BCA255 基準値:160 U/mL以下
NCC-ST-439 基準値:7 U/mL以下
乳がんの腫瘍マーカーはステージⅠだと陽性率が低く、早期発見には役立ちません。
ステージが進行した段階で、測定されます。
CEAの測定により触知不能乳がん(To乳癌)を発見することができます。
膵臓がん・胆道がん
CA19-9 基準値:37.0 U/mL以下
膵臓がんのCA19-9は、ステージⅠでも陽性率77%と高く、CA19-9は発見困難な膵臓がんを見つける方法の一つです。
胆道がんのCA19-9はステージⅢでこそ70%を越えますが、ステージⅠの初期には反映されないため、早期発見には向きません。
また、胆石症の陽性率も20%ほどあるため、画像診断と組み合わせて評価することが重要です。
卵巣がん
CA125 基準値:35.0 U/mL以下
子宮頚がん
CA125 基準値:35.0 U/mL以下
SSC 基準値:1.5ng/ml以下
CA602 基準値:63 U/mL以下
子宮頚部がんは扁平上皮癌が90%であるため、まずSSC抗原を検査します。
残りの10%は腺癌となり、CA125を測定します。
しかし、子宮頚がんの腫瘍マーカー陽性率は、ステージⅠで40%以下であるため、スクリーニング、早期発見としての意義は少ないです。
また、子宮体がんのステージⅠにおける陽性率は30%以下であり、計測意義はほとんどありません。
*SCCは皮膚疾患でも高値となるので注意!
*CA125は子宮内膜症、月経、腹膜炎、妊娠、肝硬変で高値となるので注意!
前立腺がん
PSA 基準値:4.0 g/mL以下
前立腺がん=PSAと思われているほど、前立腺がんを特異的に測れるのはPSAです。
転移性骨腫瘍(がんの骨転移)
I-CTP 基準値:4.5ng/ml未満
ほぼすべての臓器がん
TPA 基準値:125U/ml以下(RIA法)
腫瘍マーカーの問題点
① 一般的に、初期の段階における感度が低く、スクリーニング検査には適しません。
② 腫瘍マーカーの値が正常になっても、がんが消失したとは言えません。
③ 偽陽性、偽陰性に注意が必要であり、検査の解釈には専門的知識が必要です。
④ 腫瘍マーカーの測定には診療報酬上の制限があります。
腫瘍マーカーまとめ
腫瘍マーカー測定は癌の進行度を反映でき、必要な不可欠な検査です。
しかし、診療報酬上、何度も検査できません。
特異度と感度が低いので、早期発見の検査には向かない腫瘍マーカーが多いです。
がんが確定している患者の経過を知るために用いられます。
参考文献
1.腫瘍マーカーの見方.ガイドライン2005/2006. 第三章.
2.熊川 良則. 肝細胞癌の早期発見と腫瘍マーカー. 広島市医師会だより. 第606号. 2016.
3.小林 浩. 腫瘍マーカー. 日産婦誌59巻(4). 2007.