腸閉塞(イレウス)は、癌患者さんに起こる症状の一つです。
おならが減り、お腹が張る事で、食欲低下や吐き気などの症状が出現します。
状態によっては癌治療を中止せざるを得ない事も。
まずは腸閉塞になる原因を知る事から始めましょう。
腸閉塞(イレウス)
腸閉塞とは、食べ物や消化液、ガスなどが何らかの影響により通過しなくなる病気です。
主な症状は、腹痛、吐気、嘔吐、腹部の張り、便秘や下痢、脱水です。
腸の役割
- 食物の消化と吸収
- 免疫機能
- 病原菌の感染予防
- ビタミンの合成
- ホルモンバランスコントロール
- 自律神経を整える
腸はこれだけの役割を担っています。
腸内細菌は善玉菌、悪玉菌、日和見菌に分類され、体調や食べ物に影響されて常に変化しています。
腸を整える事は、体を整える事と同等であり、腸の大事さが分かります。
癌と腸閉塞
多くの癌患者さんは、腸の問題を抱えています。
癌自体によるもの、癌治療の副作用によるものと、原因は様々ですが、大きく以下の4つが考えられます。
- 癌治療薬・併用薬の副作用
- 消化管、腹部の術後合併症
- 癌による消化管圧迫・閉塞
- 腹膜播種
癌治療薬・併用薬の副作用
抗がん剤は癌細胞のDNAを傷害する治療ですが、同時に腸粘膜細胞も傷つけてしまいます。
そのため、吐気や嘔吐、下痢といった副作用が出現します。
分子標的薬は、抗がん剤程の副作用は起こらないとされていますが、シグナル阻害剤(イレッサなど)やタンパク分解酵素、プロテアソーム阻害剤では、腸管症状が出現します。
消化管、腹部の術後合併症
開腹まはた内視鏡手術を行うと、高頻度に腸管症状を合併します。
多くの原因は、切開した術創部を修復する為に炎症性サイトカインが分泌され、癒着を起こすことです。
腸管症状が重症化し、腸閉塞になる事もありますが、それが1カ月後か、数年後か分かりません。
術後にみられる腸閉塞の種類
絞扼性イレウス
腸に栄養を与える腸管膜を締めつけ、腸管の血行障害を起こす状態。
単純性イレウス
血行障害は伴わず、腸管の障害のみにおこした状態。
麻痺性イレウス
腸管の蠕動運動が低下することで起こります。
これを防ぐために、術後はお粥などを持続的に摂るよう勧められます。
痙攣性イレウス
腸管が強く収縮し、腸管の蠕動運動が障害される状態です。
癌による消化管圧迫・閉塞
大腸や小腸、他に腹腔内の臓器にできた癌が大きくなり、腸が圧迫されることで起こる症状です。
癌自体の縮小が行えれば理想的ですが、多くの場合は困難ですし、緊急を要する場合がありますので、その際はマーゲンチューブやイレウス管などの挿入による一時的な減圧が行われます。
腹膜播種(癌性腹膜炎の合併)
腹膜播種した癌細胞が腹膜で大きくなり、腸管を圧迫します。
また、腹膜で炎症を起こし、腸同士や腸以外の臓器へ癒着を起こす結果、腸閉塞になります。
腸閉塞の治療
最初に行われるのは絶食と下剤または浣腸で胃腸を空っぽにし、補液を行う保存療法です。
吐気が持続する場合は、胃管(マーゲンチュウーブ)やイレウス管(ロングチューブ)を口から挿入し、減圧する処置が行われます。
先ほど述べた絞扼性イレウスや、腸捻転を起こしている場合は、手術が必要になります。
イレウスの状態によっては、人工肛門(ストーマ)を作る場合があります。
余談ですが、
ストーマは腸のどの部分で作られるかによって、自己管理のしやすさが変わります。
例えば、胃に近い小腸や十二指腸でストーマを造設した場合、便は柔らかいです。
肛門に近い下行結腸などでストーマを造設した場合、便が硬くなります。
管理の面から言うと、肛門に近い方が管理しやすいです。
軟らかい便は、漏れやすく、臭いも強く、皮膚も爛(ただ)れるので、管理も大変で、患者さんのQOLも低いです。
腸のどこでストーマを造設するかは、症状に合せた主治医判断となりますが、手術説明の際に、なるべく肛門側の腸でストーマを造設してもらうよう、主治医へ相談してみることをオススメします。
癌性腹膜炎の場合の治療
胃管+PEG増設
手術が適応とならない癌性腹膜炎のイレウス治療は、胃管(マーゲンチュウーブ)の一時的な減圧が試みられ、場合によっては胃瘘(PEG)を作成して減圧を図ります。
*腹水を伴う癌性腹膜炎がある場合、PEGは相対的注意とされています。
尖端が小腸まで到達されるイレウス管(ロングチューブ)を挿入する場合もありますが、胃管と比べて効果は同等とされています。
酢酸オクトレオチドの投与
腸液分泌の低下や腸における水分、電解質の再吸収を促す作用のある酢酸オクトレオチド300μg/日の持続皮下投与が推奨されています。
体験者のお話
癌と腸閉塞まとめ
癌の腸閉塞は、多くの癌患者さんが悩む症状の一つです。
吐気、嘔吐、腹痛、下痢などの症状が出現します。
癌に伴う腸閉塞の原因には、癌治療薬の副作用、術後合併症、癌の圧迫、腹膜播種があります。
治療は保存療法から手術まであります。
・幸田圭史. イレウスの治療と予防.日本消化器外科学会教育集会. 2010.
・戸倉夏木. 癌終末期消化管閉塞に対するオクトレオチドの有用性. 日消外会誌40(4):522~527,2007.