便秘は多くのがん患者が経験する副作用です。その原因には、抗がん剤のみならず、がんに対するストレスや水分摂取不足なども関係しており、複合的症状です。
また、便秘に対する医師と患者の認識にはズレもあります。
医師は排便の回数や頻度を参考に診断を行いますが、患者は便秘に伴う腹部症状(腹痛)を重視しています。
そのため、便秘を訴えても、十分に解決されない経験も多いです。
便秘には薬剤が使われますが、常習性も危惧されているため、自分で行える便秘対策を知る事が大事だと考えています。
ここでは便秘の治療や対策などを紹介します。
がん治療に伴う便秘
便秘の基準
便秘の診断にはROME Ⅳ基準がありますが、読解がとても難しいです。
大雑把に、「週3回未満の排便回数」または「2日に1回以下の排便回数」であれば、便秘だと考えて下さい。
がん治療による便秘は、「続発性便秘」と呼ばれます。
以下に解説する知識は、続発性便秘に対する対策だと考えて下さい。
がん治療と便秘の要因
抗がん剤
腸の運動を調整する自律神経やホルモンに作用し、腸の蠕動運動が起こりにくくなります。
ビンカアルカロイド系:ビンクリスチン、ビンデシン、ビンブラスチン、ビノレルビンなど
タキサン系:パクリタキセル、ドセタキセル
オピオイド鎮痛薬
小腸の運動を抑制し、腸液の分泌を減らします。オピオイド受容体は脳に多く存在し、鎮痛効果を発現しますが、腸にも多くオピオイド受容体があるため、便秘を引き起こします。
制吐剤
セロトニン3 受容体(5―HT3)拮抗剤を抗がん剤と併用することで、約6割が便秘になるという報告もあります。
ストレス
胃や腸は自律神経の影響を受けるので、精神的なストレスでも便秘になりやすいです。
下剤一覧とフローチャート
以上が下剤使用のフローチャートになります。
これまで日本では、便秘には酸化マグネシウム!でした。
しかし、近年酸化マグネシウムの過使用には高マグネシウム血症の出現が問題となっています。
そのため、酸化マグネシウムを使う際には血清マグネシウム値を測定することが推奨されていますが、私が臨床を見る限り、そこまでマメにされている先生はお見かけしません…
また、センノシドなどのアントラキノン系薬剤の効果はとても強力ですが、常習性や精神的依存が強く現れますし、回数を重ねると効きが悪くなります。
下剤は必要な時に、必要量を使用することが大事です。
自分で行う便秘解消!
便秘に良く効く食べ物
便秘には食物繊維!と言われますが、食物繊維には水溶性と不溶性があります。
水溶性食物繊維
⇒水に溶けて、ネバネバするものが多いです。
働きとして、腸内環境を整える、軟便形成を促す役割です。
- 果物(キウイフルーツりんご苺桃みかん等)
- 繊維のやわらかい野菜(人参、ほうれん草、大根、玉葱、等)
- 芋類(じゃが芋、里芋、長芋、大和芋、等)
水溶性食物繊維
⇒水に溶けず、水を吸収してふくらむものです。
働きとして、便通を整える、有害物質を吸着し排泄を促す役割です。
- 繊維の固い野菜
- さつま芋
- きのこ類(椎茸、えのき茸、しめじ、エリンギ、等)
- 豆類(大豆、納豆、おから、小豆等)
- 乾物(玄米、ライ麦、切干大根、干し椎茸、等)
食事の工夫
水分を積極的にとる
食物繊維を食べやすく調理
乳酸菌入りの食品を利用
適度な油脂を摂取しましょう
私の個人的なおススメは、芽かぶ納豆です!!
市販の芽かぶを納豆に混ぜて、白ご飯と一緒に食べると、次の日は快腸になります。
あのネバネバが、便をキューティクルに包み、肛門を通りやすくするのではないか…
試してみて下さい。
便秘の時に行う運動
腹式呼吸
腹筋運動
体幹のねじり
骨盤体操
排便の姿勢
現在の日本は洋式トイレが主流となっていますが、一番排便しやすい姿勢になれるのは、和式トイレです。
背中と太ももの角度35-45°は、排便におけるチャンピオン姿勢です。
病院内には和式トイレが一つくらい存在していると思いますので、試してみて下さい。
自宅の場合は、洋式便器の足元に台座を置く事で、チャンピオン姿勢になる事ができます。
がん治療に伴う便秘まとめ
便秘はがん患者さんの大半が経験する副作用であり、通常は下剤が使用されます。
しかし、下剤も薬剤であるため副作用があり、注意が必要です。
自分で行える便秘対策として、水分摂取や食事の工夫、便秘体操や環境調整があります。
参考文献
- 宮城悦子 がん化学療法クリティカルポイント対応マニュアル
- 中島淳 便秘症の診断と治療.日内会誌 106:2453~2460. 2017.