全身倦怠感(Cancer-Related Fatigue:CRF)は入院がん患者さんの約6割が経験する症状であり、ターミナル期においては7-9割に出現すると言われています。
倦怠感に対する治療法は確立されていませんが、薬物療法や民間療法が試されます。
臨床で用いられる倦怠感の評価尺度や、薬物療法、民間療法をご紹介します。
全身倦怠感の評価と治療
全身倦怠感とは
倦怠感は不快であり休息によっても取り除かれない身体的・心理的・社会的・スピリチュアル的な苦痛を呼び起こすトータルペインと考えられています。
つまり、実態のない病気のような感じです。
倦怠感の原因は、抗がん剤の副作用ですが、その他にも癌性疼痛や呼吸困難感、抑うつ、不安などの精神的要因との関連も報告されています。
小暮らは、外来通院患者における倦怠感の要因について、孤独感、ホルモン治療、放射線治療、癌の進行度が有意に関連していると報告されています。
倦怠感の評価尺度
CFS(cancer fatigue scale)
CFSは日本で初めてがん患者の倦怠感を評価する尺度として開発されました。
薬物療法
貧血改善薬(エリスロポエチン、ダルペポエチン)
倦怠感の原因が、癌および化学療法による貧血にある場合には、全身倦怠感や疲労の改善に有効です。
しかし、血栓のリスクを高めることがあり、否定的な見解もあるようです。
中枢刺激薬(メチルフェニデート、モダフィニル)
不眠などの睡眠障害がみられるがん関連疲労が原因である場合には、有効です。
また、オピオイド鎮痛薬による眠気改善にも一定の効果があります。
しかし、薬物依存も高いので、注意が必要です。
抗うつ薬(セルトラリン、パロキセチン)
倦怠感、疲労と抑うつには深い関わりがあります。
抑うつを改善することで、倦怠感が改善されるケースもあるようです。
漢方薬
癌に関連する倦怠感や気力低下の状態は、「気虚」と呼ばれ、補中益気湯(漢方薬)により疲労改善効果が認められています。
栄養不足や骨髄抑制による貧血などの状態は、「血虚」と呼ばれ、十全大補湯や人参養栄湯が選択されます。
倦怠感の民間療法
倦怠感に対する確立された対策はありませんが、その中でも報告のあった対策を紹介します。
タウリン
タウリンは、かきやイカなどの魚介類に多く含まれるシステインの分解産物で、アミノ酸の1種です。
主な薬理作用は、肝機能改善や乳酸の蓄積抑制など、滋養強壮と呼ばれる効果があります。
お酒の前にのむ栄養ドリンクにも、「タウリン○○g配合!」なんて書かれてますよね。
がん倦怠感に対するタウリンの効果を検証した症例では、タウリン1日4000mgを内服した所、CFS(上記に述べたスケール)の改善を認めたようです。
ヨガ
ヨガは、緩やかな身体操作、呼吸法、瞑想からなる心身を整える手法です。
がん患者さんでも、多くの方がヨガに通われている位、メジャーになっています。
倦怠感に対しても一定の効果が得られています。
特に、CFSにおける身体的倦怠感と、認知的倦怠感の改善効果が期待できるとされています。
鍼治療
鍼治療は古来より存在する補完代替医療の代表です。
しかし、混合診療になることから、病院内での鍼治療の提供は普及しておらず、施術者のがんに対する知識不足のため、癌に対する鍼治療は行われてきませんでした。
2000年代になり、鍼灸養成校の大学校も増え始め、論文も見かけるようになりました。
倦怠感に対する鍼治療は、CFSを有意に改善させるほどの効果はなかったが、自覚的倦怠感は改善されたという結果がでています。
個人差があるものの、倦怠感に対する鍼治療の効果は期待できる可能性があります。
サプリメント
マルチビタミン、L-カルチニン、は、がんの倦怠感に対する効果が認められないようです。
倦怠感まとめ
がんに関連する倦怠感は、がん患者の半数以上が経験する症状です。倦怠感の原因は、ホルモン治療、睡眠不足、孤独感、癌の進行具合が関連すると考えられています。しかし、有効な治療や対策がないため、薬物療法や民間療法を用いて、倦怠感とうまく付き合っていく必要があります。