2020年、牛乳と乳がんに関連があるという論文が報告され、世界中で話題となっています。
乳がんは全ての女性に起こりうる病気であり、関心も高いです。
そのため、一つの論文で、全てを結論付ける傾向にありますが、そう単純な問題ではありません。
牛乳は飲まない方がよいのか?と質問されますが、答えは「必要以上に飲む必要はない。」となります。
牛乳と乳がんリスクについて、まとめました。
牛乳と乳がん
牛乳の種類
成分無調整牛乳
生乳を加熱殺菌したのみの牛乳です。乳脂肪分3.0%以上、無脂乳固形分8.0%以上のもの。
低脂肪牛乳
生乳から脂肪分の一部を取り除いた牛乳です。乳脂肪分0.5%以上、1.5%未満のもの。
*低脂肪乳と低脂肪牛乳は別物です。
無脂肪牛乳
生乳から脂肪分の大半を取り除いた牛乳です。乳脂肪分0.5%以下のもの。
日本の生乳
日本の乳牛は、人工授精により妊娠・出産させ、約1年間搾乳を行います。これを7年間繰り返します。その後は、加工品や皮製品となります。
厚生労働省は、乳に影響を与える薬剤が残留している期間や生物学的製剤投与の反応がある期間は、乳を搾取しないよう基準を定めています。
その様な配慮をしているから、日本の生乳は安全だと言われます。この点については素人なので議論するつもりはありませんが、反対の意見の方も多いと思います。
乳及び乳製品の成分規格等に関する省令(昭和26年12月27日厚生省令第52号)
乳がんと牛乳
Fraser GE et al: Dairy, soy, and risk of breast cancer: those confounded milks. Int J Epidemiol. 2020
参考にした論文では、牛乳および低脂肪乳の摂取が、乳がんの発生と関連していると報告されています。さらに、加工品(ヨーグルト、チーズ)の摂取は関連がありませんでした。
この論文は、52,795人の北米人を対象に、10年弱調査されています。この調査期間に、新たに乳がんとなった人は、1,057人いたようです。
まず、この研究は観察研究です。
あくまでも、アンケートで対象となった方を集めて、経過を観察した結果、牛乳および低脂肪乳の摂取が、乳がんの発生と関連していたというものです。
例えば、その他の要因のコントロールが完璧に行われたとは言えません。
アルコール、喫煙、食生活、活動レベルなどのバイアス(誤差)も存在しています。
この研究だけで、牛乳は飲むべきではないと結論づけることはできません。
あくまで、飲みすぎ注意という程度です。
この論文の筆者で、ロマリンダ大学(アメリカ)のフレーザーは、乳製品と乳がんの問題はとても複雑であると述べています。
牛乳の摂取量は、特定のがんを促進するインスリン様成長因子(IGF-1)の血中濃度と相関がある事が、原因と考えられます。
成長ホルモンが発生に関係している前立腺がんも、同じリスクがあると推察されます。
日本乳癌学会の乳癌診療ガイドライン(2018年)
日本乳癌学会のガイドラインにも、牛乳について記載されていましたので、紹介します。
Q.乳製品の摂取は、乳癌発症リスクを軽減させるか?
A.乳製品の摂取により乳癌発症リスクは減少する可能性が示唆されている
解説
牛乳と乳癌発症リスクとの関連を報告した前向きコホート研究は20件確認されたが、牛乳や乳製品が乳癌発症リスクを増加させるという結果が得られた報告はなかった。
しかし、乳製品の脂肪含有量を加味した検討では、全乳の摂取による乳癌発症リスク増加、高脂肪性乳製品の摂取によるリスク増加が報告されている。
低脂肪乳や無脂肪乳と乳がん
成分無調整牛乳より低脂肪牛乳の方が、乳がんリスクが少ないでしょうか?
その可能性はあります。
2003年に報告された論文を参考にします。高脂肪乳製品が乳癌リスクと関連しているとの報告がありました。
この報告をみると、乳脂肪分の少ない低脂肪牛乳の方が良いと考えられます。
*この論文は、低脂肪牛乳と成分無調整牛乳を比較した内容ではありませんので、確実に低脂肪牛乳が良いとは言えません。一つの参考程度にされて下さい。
さらに、日本乳癌学会のガイドラインにおける解説の中にも、無脂肪牛乳や低脂肪牛乳は、乳癌リスクを軽減する可能性がある と記載されていました。
牛乳と高カルシウム血症
牛乳にはカルシウムが豊富です。
乳がんの方は、骨転移を起こす可能性が高い事は、ご存じだと思います。⇒がんと骨転移を参照
骨転移は症状が出るまで気づかない事が多いですが、背骨の画像を撮るとポツポツ点在している方もいます。
骨転移を起こすと、血液中のカルシウム濃度が高くなり、高カルシウム血症をおこす可能性があります。⇒骨転移のリハビリを参照。
血液中のカルシウム濃度は調整されており、牛乳を飲み過ぎてすぐに高カルシウム血症をおこすことはありません。しかし、カルシウムを多く摂取する事で生じるリスクは、健常者よりも高いと思われます。
繰り返しますが、1日コップ1杯が危険とは言いません。過度に摂取する必要はないという事です。
血液検査で血中カルシウムを測定しますので、その都度、確認されて下さい⇒がんの血液データを参照。
牛乳と乳がんまとめ
牛乳を過剰に摂取すると、IGF-1(ホルモン)が分泌され、乳がんや前立腺リスクが高まる可能性は、以前から議論されています。
しかし、がんの発生は、牛乳のみではなく、遺伝、生活習慣、食生活、運動習慣などの多因子が絡みあって起こります。
この論文を読んで行動するべき事は、牛乳だけに偏らず、豆乳や低脂肪牛乳も摂取するよう心掛けることだと思います。