「ヨガと乳がん」

私は医療現場で日々患者様の治療に携わり、理学療法士としてQOL(生活の質)を考えることは当たり前のことですが、その方が不便なく元の生活に戻る為には身体的にどのような能力が回復すればよいのか、評価を行い不足した能力を埋めるためにプログラムを立て、目標を設定する・・・

これは業務として当然やらなければいけないこと。しかし、患者様とコミュニケーションを取りながら、「果たしてこの目標で本当にいいのか?」と立ち止まることがあります。

一人一人のQOL(生活の質)って?

ADL(Activities of Daily Living)、すなわち日常生活を送る為に必要な基本動作である、食事・更衣・排泄・入浴・整容・移動。これらが自立することをリハビリテーションは目的としていますが、QOLも充足する関わりが期待されます。

「QOLとは」。最近は、「QOL」という言葉が医療・福祉分野以外でも使われています。「Quality of life」の略で「生活の質」「人生の質」と日本語では訳されることが一般的です。

WHO(国際保健機構)は健康を「単に疾病がないということではなく、完全に身体的・心理的および社会的に満足のいく状態にあること」と定義しています。病気やケガをした後、身体的に機能が回復し、日常生活が送れるようになっても、それは医療機関・福祉施設などでの検査を介し、他覚的に「出来るようになった」という基準にしかすぎません。

その先のQOLを考えるとWHOの定義の中の「満足いく状態」とは何でしょう。その方の「幸せ」とは何でしょう。「何を幸せとするか」は個人によって違います。リハビリテーションによって元の生活に戻るまでにはかなりの時間を要するでしょう。生活に於いて何かしらのやりにくさを感じるかもしれません。経済的なことも考え、職を変える方もいらっしゃるかもしれません。その変化を自分事として受け入れることにたくさんのエネルギーを必要とします。心身ともに健康を自覚すること、生活・人生の質が向上するには、よりパーソナルな要素を考慮しなければいけないと感じます。

QOLに影響を及ぼす因子

希望・人生観・生きがい・人生の充足感・生かされているという気づきなど、これからの将来を迎えるに必要なエネルギー源。他人には分からない全人的苦痛(4つの要因からなる複雑な苦痛)がQOLを低下させると考えられます。

① 身体的苦痛

身体の痛みや症状、日常生活動作の支障 など

 精神的(心理的)苦痛

不安、うつ状態、いらだち、孤独感 など

③ 社会的苦痛

経済、仕事、趣味、家庭、人間関係 など

④ スピリチュアル(霊的)な苦痛

人生の意味への問い、自責の念、価値観の変化、死生観に対する悩み など

なぜ、ヨガなのか?

乳がん患者さんにとっての、「女性性」は苦痛を感じる一つの因子でもあります。

ライフステージによって、抱える悩みもそれぞれ。

このまま恋愛、結婚をしてもいいのか。

治療中、妊娠できないのでは?という不安。

治療による副作用との闘い。

妻としての役割、母としての役割が果たせているのか・・・

 「全人的」(身体や精神などの一側面からのみ見るのではなく、人格や社会的立場なども含めた総合的な観点から見ること)に捉えた時、患者さん自身の内側から生み出される苦痛とは別に、他者との関わりの中で感じる問題・悩み・苦痛があると思われます。いろんな環境の中で、パートナーや家族、職場での関係性・役割。誰かに求められることで自覚する「私らしさ」。その方のバックグラウンドを考えた時、女性としての立ち位置もQOLに大きく影響するでしょう。

出来ないことではなく、出来ることにゆっくりゆっくり向き合うこと。

過去の自分も、今の自分も、未来の自分も否定するのではなく、緩やかに心と身体を結んでいく。

伝えたい事

ヨガによって病状を変化させることはできませんが、呼吸・瞑想・座法を使い身体へ意識を向けることは、いろんな雑念にとらわれることなく、「今、瞬間の気持ち」「今ある身体状況」といった現実をあるがままに知覚して受け入れる心を育む練習ができます。自分の身体を動かすことで、心の変容を感じ、自分の人生を自分で応援できる姿勢を取り戻す・・・ヨガは少しずつの成功体験の積み重ねです。自分を傷つけず、認めることの一助となるでしょう。

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